歯形
佐藤真夏

立てた小指の
赤い指輪は
細く練った
水飴の糸かもしれない
柔らかく伸びて歌って
キリキリと
絞めてくるから
ピアノ線なのかもしれない
いっそ
この指を切って
いっそ切り落として
その断面から流れ出る
私のドロドロは
野原に寝転がればいい
それは銀色の
はぐれメタルみたいなもので
いつでも「こわい、逃げよう」が
体中を巡っているお化けです

ろうそくが溶けるように泣いても
ゼロには戻らなくて
新しくもなくて
エレベーターの
「閉まる」を押して
献血に向かう
400mlと決められた
A+のらせんが
管の中で行き場をなくして
スケルトンパックは
破滅的に膨れていくから
「こわい、逃げよう」
のかたまりが
パンッと音を立てる前に
小指を噛まないといけない。

いっそこの身ごと
いっそ、と言っても
どうにもならなくて
赤い憂鬱は晴れた空を巻き取って
風を立てながら膨らんでいく

うわの空の自慰で芯を攻撃する
ひかりってなんですか
のかたまりがその中心に
台風の目の静けさで
ふわんふわんと浮かんでいる。


自由詩 歯形 Copyright 佐藤真夏 2009-12-08 22:34:32
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