Cry Baby (Good night)
ホロウ・シカエルボク





明け方は残像、未来の癖に思い出みたいな余韻をはらみながら、「見えない壁」のパントマイムみたいに窓の所でこっちを見てる
FMのチャンネルからはハイドン、俺は一気に歳を食ったような気分になり、食卓のトーストはほんの少し焦げすぎていた
イデオロギーのない朝はインスタントで事が足りる、朝刊から拾ったニュースは汚職2、離婚1、死者数6、またかよえっもう、ご愁傷様
玄関を出ると見える近くの山の電波塔、あそこから何かが飛んでいるなんて俺は考えたこともない、需要と供給の関係、アンテナとチャンネルだけの関係
空気は冷えていて肩をすくめる、べつに雨の後ではないのにそれみたいな反射、無数の針で眼球を刺されたみたいで小さくため息をつく
学生たちの自転車はネズミみたい、サラリーマンたちのバイクはドブネズミみたい、程度が下がれば無秩序も常識さ、服着るケモノが繋いでゆく無駄な遺伝子
駅の構内に浮浪者、寒くないのかと気まぐれで尋ねたら、そう思うならなんかくれよとぶっきらぼうに返された、昨夜街でもらってそのままだったピンサロのチラシを渡してやると真っ赤になって怒鳴り散らした、馬鹿にされたくないのならそんな暮らしをするべきじゃない
揺られている、揺られている、揺られていると消化出来ない眠気と朝食で横隔膜から煙があがる、俺が目覚められないせいなのかね、ねえ横隔膜、そいつは俺が目覚められないせいだってお前は言うのかい?降車してコーヒー買ってベンチに座り急いで飲む、タイム・カードにゃこのところ、芳しくない印字が続く
ブートレッグの専門店の、汚れた壁にミック・ジャガー、ヘイ、ヘイ、ミック!「やってみりゃつかめるものもあるかもしれない」って、あれはどれだけ本心なんだ?あんたはいまでもブルースの行先以外にゃまったく興味がないくせに
次の角で曲がらなければ出社出来ない、だけど直線道路の向こうはこの上ないほど魅力的、ネクタイを緩めるか、それとも締め直すか、週に三度は訪れる自問自答、行きたいところに行ったらその分、行くべきところに行けなくなること、これまで何度経験してきた?
タイム・カードは仏頂面でギリギリセーフの時刻を返す、ああ尊き労働、機械までもが病んでるみたい、挨拶をして席につく、近頃ここで流行り始めた俺に関する妙なデマ、生憎ですが皆様方と同じ目線でいさかうほどには、当方時間の空きがございません、お手数ですが他の落度をお当たりください
昼食は悩みもせずにカロリーメイト、ビタミンカロチン食物繊維、山ほど奪ってもしょうがねぇ、惰性で流すに燃やす種など、バランスフードで上等さ、責任持って腹6分目で流して見せましょ午後の焦燥、面白くもないディスプレイ、眺めているうち短い夢を
今何時だろう時計の針を、見るたび死体のヴィジョンが浮かぶ、そいつの顔まで確かめない、確かめたりなんかしないよ、目を見開いて横たわってる、見知ったなりのそいつの顔など
酒が飲みたいわけじゃない、女とヤリたいわけじゃない、薬を買いたいわけでもない、欲しいものなどなにもないのに、賑わう通りで時間を潰す、正気になるのが怖いのかい、よれて汚れた自分を知るのが
駅の構内に朝と同じ浮浪者、俺と目が合うとそっぽ向いて寝たふりを始めた、その仕種に俺はムカついて奴の鼻先へ酒臭い息を存分に吐きかけてやった、少し歩いて振り返ると、奴は声を殺して泣いていた、さすがに少し悪かったと思った
あんなふうに死んでく自分が頭をよぎらなくもない、本当こいつはマジな話で、こんなボンクラいつ弾かれても俺にはちっとも不思議じゃない、ふふ、よう、おい、その浮浪者の顔を確かめるなよ?
シャワーを浴びたら死にかける、消化試合に子守歌はない、それを堕落と言うのならあんたの暮らしを見せてみな、スタンプみたいな笑顔の女が、ペチコートで踊るのを見てた











自由詩 Cry Baby (Good night) Copyright ホロウ・シカエルボク 2009-12-08 18:33:33
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