カメレオン飛ぶ
楽恵

丸い鈴の葉と
赤いリボンを生やした大きなポプラの木に
いつからかカメレオンが一匹棲みついた


僕はいつもプロペラ飛行機の窓や
鉄格子の向こうからそれを見ていた


彼はとても臆病なカメレオンで
危険を感じるとすぐ周囲の色彩に同調し
日めくりカレンダーのような速さで
全身の色を変えた


誰よりも怖がりなカメレオン

夕陽の眩しさに驚くと 
パパイヤ色に

戦争で街が焼ければ
真っ黒な炭に変身した

カメレオンの変身があまりに巧みだったので
誰もそれがカメレオンだと気づかなかったが
僕はカメレオンがポプラの木のどこにいるか
すぐに分かった
なぜならカメレオンはいつも
大きな光る目をギョロつかせ
空ばかり見ていたから


彼は毎日
空ばかり見ていた


ある日街に
涙の海が津波のように押し寄せ
ライオンの親子が避難するため
カメレオンの棲むポプラの木に登り始めた


カメレオンは木のてっぺんまで追い詰められ
ライオンに食べられてしまう恐怖のあまり
夜空に輝く星のように光になった
その姿はまるで
クリスマスツリーの天辺にある星のようだった


ある日の朝
涙の海はついに満潮となり
ライオンの親子は溺れてしまったが


その時カメレオンは
ふわりふわりと
木登りをするように
空を飛行し始めた


カメレオンが空を飛んだ!


やがてカメレオンは

青色に溶け
空に消えた


その日以来
僕の街は涙の海に沈み
僕は空飛ぶカメレオンを見ていない


自由詩 カメレオン飛ぶ Copyright 楽恵 2009-12-07 15:18:16
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