Bus stop/パール・ハーバー
月乃助



赤錆びた鉄くずに
音ばかりがしてきそうで、
枝の間にのぞく空の端に
来るはずもない
飛行機をみていた
確かにここでは、ディーゼルの音が
あんなにも していたのに
St.Charles Street

平たいコンクリートは、
打ち捨てられたバス停の
歴史の小さなプラット・フォーム
黒く染められたように 黙っている
赤く縁取られ
枯れ葉に浸食され 横たわる
たわんだ電線の上に 時をため
肌をさらす プラタナスの

バスはもう
やってこないのです
【Bus Stop】のサインもない そこに
いつか バスがとまっては
人の足音を聞いたのは、

今は、ときおり
子どもの運転手がやってくる
夏に、レモネードを売ったり、

十二月の空
暖かな島に、たくさんの飛行機が飛んでいった
煙の中を
叫喚の中を
蜂のようにとびかう

― あのときと同じ青色の、

あたしを、その先の空を
見あげる
子どもたち

そこから乗り込めば 二ドルばかりで
隣町にだって往復できた 

昔の話といって
忘れますか
冬だといって
コートの襟をたてては、耳をふさぐように
幸せな子どもの声が
ここにあるのなら なおさら、

やってきたって そんな昔の
バスに乗っている人たちは誰も知らない、
ここで待っていてもしようがないのです、
あたしは、
それに乗らずにすんだ
最後の、バスはとうに走り去り
戦争を知らずに生まれた
いつまでも 見捨てられたそこで、
子どもの手をひいて
小さくなって、
雨ばかりを眺めている
鉄くずの 錆びるにまかせ

だから、車たちは すまなそうに
走っていくのです

きっと、
雨のいつもの香りが、やってこようと
海の向こうでは
争いも 殺しあいも
今も休みないの だから

あそこを歩く
老婆は、それに
気づいてか、
ふりむくと 小さく
ため息を ついたりするのですね







自由詩 Bus stop/パール・ハーバー Copyright 月乃助 2009-12-07 05:18:53
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