石になる
佐野みお

心を石にしなければならないときもある
そんな言葉を聞いて 今がそうなのかと
石になって押し黙っていたら
でくのぼうと罵られた

欺いたり盗んだり蹴り上げたり
でもそれは愛しているからなのだと
ひとは言う そういうふうにしか
できなかったのだから と

どういうふうにすればいいのか
たしかに難しいもんだいではある
花を贈ったとたん萎れ始めたりするし
やっと おはよう と言えたときには
日が傾き始めていたりするし

さあこれで最後の質問です
あなたには生きる価値がありますか
聞こえないふりをして みんな同時に
リモコンのスイッチを押したんだ
何を爆破するシステムなのかは
不問 ということにして

本当のことを言ってしまうのは怖い
だから歌うことでごまかしている者もいる
たいていそういう奴が叫ぶんだ
歌の力を信じています と

季節が回る速度は どこまで
速くなっていくのだろう もう
誰の夏の誠意も古びてしまった
四季を貫いてひとが信頼を寄せるのは
結局名高い料理人が作る 味が濃い
煮込み料理でしかない

友人は婚約をした 約束をすれば
少しだけ幸せになれるらしい
ぼくも誰かと何かを約束しようかと
考えたけれど誰も何も思いつかない

蓄積の結晶 ですか でも本当は
進行中のことがらをすべて 一番の
最初からやり直した方がいい
そんな気がしながら酎ハイを飲む

ああ 酔うしかないのだろうか
化石する前に ぼくの頭が
化石する前に 歴史が
ああ 化石する前に 人類が


自由詩 石になる Copyright 佐野みお 2009-12-05 20:56:10
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