教室に向かって歩いていく
瀬崎 虎彦

恋人はまぶしい午後の光に
パウダースノーとなって朽ちた
彼女を運んで行った同じ風が
僕の窓際にサルビアの香りを連れてきた

季節がめぐって僕は知らない場所に行き着いて
生活はいつの間にか地面に根を張り
思い出すことと思い出さないことの間に
青々とした蔓草が城壁を築いていた

大好きだからそっとしておくべきものがあり
大好きだから距離をはかるべきことがあり
それ以外のことは日々の雑事に追い越されていった

希望の射程距離はいやおうなく短くなるが
年を重ねるごとに生きやすくなって
僕は今日も教室に向かって歩いていく


自由詩 教室に向かって歩いていく Copyright 瀬崎 虎彦 2009-12-05 16:29:55
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
教壇詩集