あぐり




飲まなかった眠剤を
ひとつぶ ひとつぶ
湿った土に埋めて
紫がかった芽が見えてきた朝から
八年間くびをそのままに待ち続けたら
柿がなる

たわわに実る柿の実は
わたしのせいで熟れすぎて腐りました
ぼたり ぼたりと落ちていくその潤んだ赤色を
数えて数えて
今夜も眠ろうとします
夜に積もる言葉をかき集め
ひとつぶ ひとつぶを洗い出してもまったく
あなたに届くものが無くて
途方に暮れたわたしのくびすじにまた
ぼたり ぼたりと柿が落ちる

肋骨を伝わる雨は
ひとつぶ ひとつぶ
窪んだおなかを流れ
わたしのなかからどうにかしておもいでをこぼしてしまおうとながれ

(想い出が増えるからわたし、泣いている)

いらないものを見つけられない浅ましさは
べとつく甘さでしかなくて
あなたの為に剥こうとした
熟れすぎた実に刃が滑り
左手の人差し指が揺れた

こんなにもこんなにも
想い出はいらないのです
忘れてしまわぬようにと埋めたあの種が
わたしのからだ、みぞおちから芽を出す日を待ってるまっている
善くないとして
善くないとして
それでもわたしは悪くないよと笑うあなたの
身勝手な蜜に満ちて
また熟れていく、柿の実が
ぼたり ぼたりと落ちるのを
ひとり
数えて眠ろうとしている午前三時二分
また落ちた実を
食べることもせず見つめて
ひとり
数えて眠ろうとしている午前三時二分





自由詩Copyright あぐり 2009-12-01 23:42:16
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