こしごえ

一度きりあった
あの年の冬日和の空を
見上げた
雪深い底では私が眠っていた
春を待ちながら
かたい殻でおおった種子だった。
銀世界の予感の中心で
熱く流動する硝子のように夢を見ていた。
あの日以外は無表情に枯れた空
終りなく厚い雲の海原
真昼も真夜中も星星のささやきは遠く
並木道を風は青ざめて吹きすぎる
立ち止まる者は凍てつくか
おもい出になってしまう
私のように冬眠しなければ
この冬も越せない。
灰白の空のもとを歩むひとがいる
黒い外套を着て
どこへ行くのか
むき出しの顔は透けていて
白い息だけが熱い
― なぜ、こんなにもひとりなのか
と問う白さは雪をあざむくくらいに。

雪の多い年は豊作になるよ。
誰かがそっと耳打ちする 冴え返る星夜
ひっそりと交叉点に静止する足。

冷静な視線は狂わずにじっと見つめる
土へ枯れていった葉の青さを
変わる信号の一瞬の連なりを
経過する青い落果を
あのひとったらね
私の鎖骨に口づけするのよ?
黒髪へ雪解けて
沈みつづける夕日は熱いかな熱いかな。
冬の天涯は哀切の吐息におおわれ
今日も深淵では夢を孕み
しんとしん
冷たく光るさまざまな結晶の子守歌雪原する











自由詩Copyright こしごえ 2009-12-01 06:45:47
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