コント「だるまさんは転ばない〜或る立ったきり老人の死」
花形新次
逗子寿会会員 スズキさん(84)以下ス、サトウさん(78)以下サ、
ヨシダさん(98)以下ヨ の会話
ス:「久々に皆が集まったんじゃ、童心に帰って、アッチむいてホイでもやらんかね。」
サ:「いいですなあ。やりましょう。」
ス:「ヨシダさんは如何じゃ?」
ヨ:「ンアーッ。」
ス:「そうかそうか、ヨシダさんもOKかね。それじゃあ、言い出しっぺのワシが鬼に
なりましょう。」
サ:「いいでしょう。我々は位置につきましょうか、ヨシダさん。」
ヨ:「ンアーッ。」
ス:「では、行きますぞー。アッチむいて〜ホイ!はい、サトウさん動いた!」
サ:「ワ、ワシ?ワシはまだ一歩も動いとりゃせん!」
ス:「そんなこと言ってもダメですぞ。確かに動いたんだから。」
サ:「そんなわけない。ワシはまだ何もしとらん!」
ス:「でも、現にその左手、ホラッ、動いてるじゃないか。」
サ:「こ、これは・・・・、し、しようがないんじゃ!震えが止まらんのじゃ!」
ス:「フフフフ、サトウさん、あんた、アッチむいてホイのルールを知らんのかい?」
サ:「うっ・・・・。」
ス:「知らないなら教えてあげよう。アッチむいてホイは、鬼が振り向いたとき、
何があろうと決して動いてはならんのだ!!」
サ:「・・・・。」
ス:「あんたは、自分の一番苦手とする世界に足を踏み入れてしまったっちゅうこと
だ。分ったか!分ったら、観念せい!」
サ:「・・・・。」
ス:「そうそう、大人しく囚われの身になるんじゃ。あの戦争でワシがそうだったよ
うに・・・・。」
サ:「(威張れたことか)・・・・。」
ス:「おっ、いかんいかん。感傷に浸ってしまった。それではヨシダさん、続けます
ぞー!アッチむいてホイ!」
ヨ:「(微動だにせず。)」
ス:「さすが大先輩。まったく動かん。」
サ:「(前にも進んどらんが。)」
ス:「もう一回。ア、ツ、チ、むいて〜ホイ!」
ヨ:「(微動だにせず。)」
ス:「ほう、タイミングずらしにも動じませんか・・・。アッチむいてホイ!」
ヨ:「(微動だにせず。)」
ス:「な、なにーっ、必殺フェイント攻撃にも耐えるとはー!」
サ:「(っていうか、前に一歩も進んどらん!)」
ス:「恐るべし、ヨシダ先輩。こうなったら、超スロー&タイミングずらし戦法しか
ない!いくぞ、ア〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(60sec経過)。」
サ:「(なげえっつうの!)」
ス:「ツ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜チ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(さらに120sec経過)。」
サ:「(ほんとになげえっつうの!)」
ス:「ふう・・・、むいてホゲッ!ゲッホゲッホ!」
サ:「(てめえが息切れしてやんの、アホ!)」
ヨ:「(微動だにせず。)」
ス:「ゲホゲホ、何故なんだ。何故あなたはそんなに凄いんだ・・・・。
ヨシダ先輩・・・・(涙)。ワシの負けじゃ。完全なる負けじゃー!」
サ:「(何言ってんだ、コイツ。)ヨシダさーん!あんた、動かないだけじゃだめなの。
アッチむいてホイを言ってる間に、ワシを助けに来なきゃ!」
ヨ:「(微動だにせず。)」
サ:「ヨシダさーん!」
ス:「ヨシダせんぱーい!」
サ:「聞こえとらんのかな?」
ス:「・・・・・・・。」
サ:「ちょっと一旦休憩じゃ。ヨシダさんを見てきますわ。」
ス:「・・・・・・・。」
サ:「ヨシダさん、あんたも休憩じゃ。なあ、ヨシダさん?いいかい、あ、ん、た、
も、き、ゆ・・・・???、ヨッ・・・、ヨッ・・・、ヨシダさーん(絶叫)!」
−完−