鶏野郎
榊 慧

真面目。おとなしい。やさしい。賢い。成績いい。サンクチュアリ(?)。

信じられない人もいるかもしれないがこれらは学校、クラスメイトらから見た俺を形容するものである。俺自身も「違います」と言いたい。そして上の言葉を信じる人はいないと思うが、一応言っておくと全て誤解による評価だ。



俺は学校では自己主張らしきものを全くしないのだ。例えば今日。

3時間目の現代文で漢字のテストがあった。俺は漢字のテキスト(漢字フォルダ)を持ってくるのを忘れ、そして今日漢字のテストがあるということを忘れていた。5組の知り合いに借りる。そして、クラスメイトらが真面目に必死に漢字を覚えている中で俺は本を読んでいた。当然だれとも話さない。俺はうつむいて休み時間は便所に行く意外殆ど本を読んでいた。肩が凝って気持ち悪い。時々軽く話しかけられる。何か間違いがあったら嫌なのでとりあえず笑っとく。喋る時はとげとげしく聞こえないよう控え目な感じに喋る。そしてずっと本を読んでいる。山田詠美さんが第九七回直木賞を受賞したソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー(幻冬舎文庫、ブックオフにて300円)。昨日山田詠美さんの文庫本をブックオフの105円コーナーで10冊買った。定期試験前に俺はなんで本を買うんだろう。今回の試験(も)、失敗したら山田詠美さんのせいだ。しかしこの人今はもう50くらいなんだな。

…5時間目、英語の授業で英文を訳しその場面に合う絵を2〜3人のグループで考えて描けと言われる。俺は誰と一緒に訳して描けばいいのだろう。半年以上たった今でも俺はノートを気軽に借りれる人がいない、最近ようやく挨拶が朝出来るようになったのだ!あー、一人でやるよ俺!英語なんて俺はただのぐにゃぐにゃした線にしか見えないけどがんばるぜ俺!…とどきどきしていたら一緒にやろうと2人の女子から声をかけられた。思わず「ありがとう」と言う俺。彼女らの内、髪の長い方の子は以前赤外線通信をした。帰りの電車でしばしば一緒になるのだ。クラスの中では最近比較的よく話す。…比較的。席が近いから。もう一人の子はその彼女と仲がよく、休み時間などはあともう一人席のはなれた子と3人でだいたいいつも一緒にいる。そしてそのもう一人の子は帰りのHRで赤外線通信をした。彼女は俺の後ろの席に座っているH君(仮名)に好かれている/気に入られてるらしく、大層迷惑がっていた。そして彼女はH君の後ろの席、つまり俺の後ろの席の後ろ、と微妙に近い席にいる。俺は、助言した。全然違うメールアドレス書いて渡せばいいやん。

その英語の授業中、俺は彼女らに脚を組んでいるのがえろいという言いがかりをつけられ、笑われていた。何故。俺は慌てたそぶりをする。H君がその後ろ(略)の子をチラ見してから俺をチラ見した。一瞬目があった。H、俺は彼女らから話を聞いているし知っているが、お前に脈は全くないよ。(俺は基本的に性格が悪い。しかしそれが学校では露見していない!)そして俺に性的魅力はない。(つまり俺の存在はえろくない。)


帰りに目が合ったクラスメイト(だけ)に手を振られる。バイバイ!うん、バイバイ。俺からは挨拶ですら声をかけない(かけられない)。なんだコイツと思われるのが嫌なのだ。俺はクラスでは別のもののように基本扱われている。都筑やもんな、みたいな。遠巻きにされている感がある。今日はいつもより多く話しかけられた話した日だ。昼休み以降は口を開いた。いつもは午前中だけでなく一日中口を閉じている。喋る必要が無いからだ。だから口が乾燥せずのどが渇かない。


帰りの電車で英語のときの髪の長い方の子と一緒になった。彼女はそれほど濃くはないにしろ化粧をしている。こないだ別の高校に進学した彼氏と分かれたと言われた。年下が好みだと今日は言った。引っ張っていかれるのは絶対に嫌、引っ張っていく方がいいらしい。彼女は莫迦ではない。知らないことは多いだろうけど莫迦な女の子ではない。いい女の子だと思う。第一、俺と喋るし。

これが帰宅するまでの大雑把な俺の「話した」記録だ。




本を読んでいる休み時間、あまり集中していない(が、俺は真面目で勉強が出来る人、という誤解を受けている。俺は劣等生だ。)授業中と関わらずに俺は「暗い奴だと思われてるだろうな…」とネガティブになる。俺のルックスはパッとしない上にお洒落らしきことも特にしていない。…クラス女子とその中の何人かの他クラスの友人曰く「ちゃんとしたら絶対いい」らしい。自意識過剰とかでなく、そう面と向かって過去2回は言われたし、一昨日化学の授業中そう話していたのが聞こえたのだ。聞こえていない気づいていないフリをしたが一瞬俺の方に視線が向いた。じゃあ俺は今はよくないんだろう、いや、手を入れたとしても俺は別に大してよくもならねえよ。…山田詠美さんの本を読んでいるくせに俺は服や髪型、お洒落に力を入れていないのだ。何故なら、そういうのができないから。
そして、俺のそういう態度は擦れてなくおとなしい奴、というイメージまで植え付け、ただどうやって話せばいいのかわからない、集団で行動というのが無理、暇だから趣味の読書をしている、という俺を、かしこいんだろうな、変わってるな、と思う理由となっていく。
自己主張をしないからますますそういったイメージは付いていく。しかし、俺には学校での振舞い方がわからないのでとりあえず大きな失敗だけはしないようにとするしかない。悪循環である。だから友達というのが出来ない。あいつだけは無理、という人も何人かいるにはいるのでそいつらはこちらから却下であるし。何様だ俺。


半年たってようやくこれなのだ。来年度からまた新しいクラスになり一からなんだと思うと今から憂鬱である。休んだ時とか誰にノート借りよう。俺勉強できないんだよ、だから何でも俺が答えられると思うなよ。化学と英文法なんて最悪だぜ。


そして同級生たちは俺が恋をしないと思っている。セックスしたことが無いと思っている。
恋はともかく時々莫迦にしてんのかと思うことを言われたり聞かれたりもする。莫迦にしてんのか。(と、思いつつ「どういうイメージ持たれてるんよ俺」と笑いながら言う。)




…彼ら彼女らに俺がチキンであることはばれていない。まあ、だから、多分ずっとこのままだろう。だって悪化させるよりは現状維持だ。チキーン!合う人、とかそういうのも基本的にいないしね。しばらく俺はロンリー君に甘んじています。誰かに怒られそうだけど。




散文(批評随筆小説等) 鶏野郎 Copyright 榊 慧 2009-11-26 19:18:07
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