あかるい艀
吉岡ペペロ

臼田雅代の財布に金はなかった
財布に金がなくても日常は消し込まれてゆく
アルバイトを終えて車で帰宅する
ふたりの恋人が今日も職場に遊びにきた
高田篤は同い年の不倫相手だ
篠木康太は六つ上の、話し相手だった
篤からのメールをチェックしていたら
篠木から電話があった

篤とセックスは最近ない
最近ない、というよりも以前の頻度ではない
それは篠木と会うようになってからだと思う
臼田雅代は夫とは別居中だった
単身赴任で和歌山にいるのだが
離婚も視野に入れた別居だった
この形からもう三年が経っていた

娘の面倒の大半は母が見てくれていた
雅代は五時まで小さな会社で営業事務をし
十二時までパチンコ店でカウンターのアルバイトをしていた
篤とは小さな会社で出会い
篠木とはパチンコ屋で出会った
二人とも雅代が別居中であることは知っていたが
篤と篠木はおたがいのことを知らない

篠木の部屋に来ていた
俺の好きな曲なんだ、
この曲なに?
アマリア・ロドリゲスの暗い艀、
え?
ファド、ポルトガルの演歌かな、
暗い?
はしけ、
はしけってなに?

篠木は雅代の知らないことをいつも教えてくれた

あたしは、あかるいはしけかな、
ソファに寝そべった篠木が雅代のあたまを撫でた


自由詩 あかるい艀 Copyright 吉岡ペペロ 2009-11-24 15:38:53
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