制裁
高杉芹香
憎しみからは何も生まれない。
そんなのわかっているのに、傷が癒えないまま月日が過ぎる。
何のプライドなのかわからないけど。
そんなプライドいつからあったの?って自問するくらい。
嘘をつかれたことを許せないままでいる。
出会ってからのあれから。
何もいらなかった。
きっとただ。
本当が欲しかった。
それはあたしがずっと正直だったから。
相手にもそうであって欲しかった。
信じたら信じただけ傷が深い。
それから。
どうやって笑うのか分からなくなることが増えた。
悲しいくらいに時間が止まる。
誰のための誰の今なんだ。
消してしまえばいいのに。
何も誰も。
出会ってなどない。起きてなどいない。
あたしはそんなに暇じゃない。
『また死にたくなったの?。今、暇なの?。』
そう言いながら無邪気に笑う
今や男友達になった元彼は
あたしの何を知ってるという?。
きみに抱かれないようにした期間。
あたしは別の男性に恋をしてたんだ。
きみは気付いていて何も言わなかった。
またきみに抱かれるようになっても
なぜかまだあの悪夢を見る。
笑い方を教えてよ、と泣いて目が覚める。
冬でも柑橘系の匂いをさせて。
あたしの憂いを取り除こうと。
きみは必死にバカなフリして。
夕べもインチキな英語で歌を歌っていた。
それを聞いていたら
あたしはどうでもよくなってベッドにもぐった。
あたしの不機嫌を気付かないフリしてきみもまたベッドに入った。
即座に寝息みたいな音立てて。
寝てなどいないくせして。
細くて白い長い腕であたしを後ろから包んだ。
あたしの周りには
優しい人ばかりだ。
けど。
どれが本物の優しさだというのだろう。
この男もまた優しい人だろうが。
彼もまた。
あたしをさびしくさせる。
そんな体温が欲しいんじゃない。
適当なことばなら喋らなくていい。
相変わらず。嘘がきらい。
ただそれだけなんだ。
明け方の駐車場。
エンジンが温もるまで車中で話して。
車が角を曲がるまで手を振りながら笑ってみた。
めんどくさい。
だから。男の前で泣くのはやめた。
ひとりになると。
時々、緊張感が途切れたように
慄くことばが口から出る。
これもまたあたしなのだと思う。
そのあたしもまたやむないのだと思う。
あ。
彼に訂正するのを忘れた。
『死にたくなどなってないよ。今。そんな暇、ない。』