夜町
within

この町の夜は静かなもので
特に冬の夜は衝動に駆られて
大きな音を立てて改造車で走る
少年少女もいない
その代わり目には見えない何かが
充満していて、それに触れられると
その部分だけ鳥肌が立つ
ふと死んだものが人恋しくなったのか
それとも陰から猛禽が嘴を光らせているのか
街灯もない道を通るときはのんびりと
夜景を楽しむというわけにも行かない
特に山道は烏が鳴き声も上げずにじっと
こちらを見ている
こちらを見て思っている
とても冷静に分析している

背格好、性別、年の頃、肉付き、空腹か満腹か、何を食べたか、ストレスの程度、トラウマ
それと死の気配

まるで死神のよう しかし死神でも立派な神様だ
海の向こうには烏を神と崇める部族もあるらしい

身体中を黒く塗り、黒いマントを翻し、木に登り
枝に立ち、叫ぶ

俺がいる 俺が見ている

僕らの死は彼らがどこからともなく見ている
森深く入った暗がりの中から一本の杉にとまった彼らが
窓から見える、息を引き取ろうとしている老人を見届け
予知したように事故の瞬間に絶叫し
マンションの屋上から飛び降りる少年の肩にのり
ひっそりと老木が呼吸をするように眠る老婆の上を
飛んでゆく

死ぬことなんて怖くないと嘯いていたヤクザに落ちぶれた幼馴染が
夜眠れないからと病院に通い始めた

明るく煌々と照らされた部屋から漏れ出る喜びは
一人眠る少女の胸の鼓動のように確かに正しく
打ち続けている

静けさの恐ろしさ 沈黙の愛おしさ

どこにいても変わらない喜びもこの町にだってある
ほんの少し隠されているだけで
朝になれば、ゆっくりと歩みだす
昨日の願いごとが今日叶うように、誰もが
祝福を受けられることを願いながら
眠ることを忘れたニートの青年が、ゴミ袋を提げて
扉を開ける


自由詩 夜町 Copyright within 2009-11-20 18:43:55
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