落陽ノ刻
服部 剛

夕暮れの川辺に浮かぶ
黒い人影は芝生に腰をおろし
ちぎれ雲に目を見やり
ぎたあを抱いて

  ぽろろん ぽろろん ・・・

黒い人影の胸には穴が空いており
ぎたあの体つきとどこか似通い
六弦をつまびいては
時折 ひとり言をこぼす

  ぽろろん ぽろろん ・・・

隠しきれない穴の隙間に
弦が震えて響く音は
川を越え
夕空の色さえ微かに変えてゆく

黒い人影と ぎたあと
時折背後を過ぎゆく人の
土を踏む音

夕空にしばし響くはカラスの合唱
その下でひとりの子供がはしゃぎながら
父親の胸の穴をめがけてぼおるを投げる

土手に伸びゆく道を走るマラソンランナーは
涙のかわりに汗をふりきり走り続ける

  ぽろろん ぽろろん ・・・

黒い人影の親指が六弦を撫でると
夕映えに照らされた
川の水面は譜面となりて
ぎたあとせせらぎは
ひっそりと音を重ねる

川の向こうの暮れゆく街で
今日も家路につく無数の人々を
心静かに讃えるように

  ぽろろん

    ぽろろん

      ぽろろん ・・・


自由詩 落陽ノ刻 Copyright 服部 剛 2004-09-18 21:48:48
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