木枯らしがぼくを飛ばしていった
あ。

木枯らしがからからと乾いた音を立てる
あらゆるものの輪郭がくっきりと描かれ
移り変わる季節への感傷に浸りたいのに
冷えた手は無意識のうちに摩擦を起こし
細胞の根元から発信される欲求を満たそうとする


親指から順番に動かしてみた
かじかんで動きづらかったそれは
繰り返すうちにだんだん滑らかになってきて
今だったらピアノだって弾けそうな
そんな気分になったりして


ピアノを演奏したことはないけれど


夜にこの辺りを散歩していると
幾種類もの虫が鳴いている
どの声がどの虫、なんてわからない
鈴虫やら松虫やらコオロギやら
多分そういうものたちだろう


様々な声の重なりが
演奏会なのか命の叫びなのか
少しだけ考えたりしたけどさ


大して重要ではないとすぐに気付いた


重要なことってさして多くはない
あの時きみが何で泣いていたのか
側の茂みで鳴いていた虫はなんだったのか
何度目かの木枯らしに乗って流されて
過ぎた季節の片隅に根を下ろす


いつか咲いて、いつか散るのだろうね


思い出すのも面倒になったから
氷みたいな指先を手のひらでくるんだ



自由詩 木枯らしがぼくを飛ばしていった Copyright あ。 2009-11-16 21:28:33
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