冬の日
ばんざわ くにお

うつむきかげんに
歩いた
切れ長の目の女の
くびれを考えながら
かつてここに
めくらの女と男が住んだ
アパートがあったと
町の豆腐売りが
教えてくれた
そうだ
どんなところにも
物語があるのだと
万年係長の男が
つぶやく
ジョウビタキのメスが
ヒサカキの実を
ついばんでいる
生き物は
乗りごこちがいい と
リチャード・ドーキンスの
利己的な遺伝子が
生垣のなかで
ささやいた

すべてを捨てるって
難しいね
場末のバーで
ロシア人の年増女と
渡り鳥の話をして
冬の日のために
乾杯した




【記】西脇順三郎の秀作に「冬の日」という詩がある。
   これをお手本にして私なりの「冬の日」を書いてみた。


自由詩 冬の日 Copyright ばんざわ くにお 2009-11-15 10:35:52
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