ノーバディ・ノウズ・ユー ーバブルー
……とある蛙
何じろじろ見てやがるんだい。
ねえちゃん俺の顔知ってるかい。
逃げなくてもいいじゃねぇか。
ここであったのも何かの縁だから
少し、爺の愚痴聞いてくれよ。
すこし臭いか?
ジャっ 少し離れて話するよ。
一
俺だって少し前は大金持
明るい海の光の中で、
たくさんの歯茎をみせた
とも だち面(づら)した
浮浪者と追いかけてくるものと
楽しげに語り合ったもんさ。
この田舎町で俺はすべてを手に入れようと
とも だち面(づら)した
浮浪者と追いかけてくるものを利用した
つもりだった。
利用して行くうちに
だんだん腹が苦しくなり
視点がどんどん低くなり、
視線がどんどん低くなり
見える範囲が狭くなり、
目に見えるようになった腫瘍は
すごく大きなものだった。
腹の辺りにまとわりついて
俺の視線を塞ぎだす。
奴らは本当に品がよい。
田舎町には不似合いな
仕立ての良い背広着て
俺に歯茎を見せながら、
これを使えと差し出すものは
俺も持っている金金金
家屋敷があるのだからもっとお金は使えます。
お金を使えば儲かります。
儲かりゃも一つ家が買えます。
家を買えば金が湧き出ます。借りられるんです。
金金金で女も買えます。
いやっ女房だって買えますよ。
毎日毎日贅沢三昧
二
そのうち俺は東京へ
田舎にいても金要らず。
東京に出て贅沢三昧。
東京港区新宿区
銀座赤坂六本木
酒も女もよりどりみどり。
そのまま夜の有名人
仕事は不詳の不動産
オフィスは銀座の一等地
社員は一流大卒で
女房はどうしたかアイドルで
俺は写真週刊誌では
なんと青年実業家ぁ
何のこたぁない遊び人
披露宴は帝国ホテル
世界一周のハネムーン
そのまま赤坂のマンションで
ものの三月で浮気三昧
それから株を買い出して
買えば買ったで儲かった
さらに株を買い足して
それを担保にまた金借りて
株は、どんどん膨れ出す。
膨れすぎれば破裂待ち。
そんな事は当たり前
それでも俺は買い続け、
下がった株も買っとけば
不思議と株価は上がるもの。
最初のうちは資金もあったが売りが集中
追いつかず、株価はどんどん下がり出す。
負のスパイラルは怖いもの
あっという間に追証(おいしょう)請求
どんどん借りる資金の追加に
買った家は売り渡し、女房は離婚で金毟り
最後は田舎の家屋敷
それも担保で競売通知
三
俺もう一花咲かせるよ。
今ではこんな落ちぶれだが、
若いときだって似たようなものさ。
誰も俺には口聞かない。
田舎の奴らはあんなものだ。
も一度東京に出たいもの。
なんてそれでも俺は言っていた。
もう 友 だち面(づら)した
奴らは来ない。
やっとまともに商売だ。
家と屋敷はまだあるのだから
担保に入ってるだけだから
そのまま売ればお釣りが来るさ。
ところがどっこい下がったのは
株価だけとは大勘違い
株が下がれば資金が消える。
資金が消えれば買い手が消える。
買い手が消えれば地価下がる。
売り手ばかりの田舎町
どこまで下がるか見当つかず。
結局別のあいつがやって来た。
死に神のような無表情
着ているスーツは縦縞の
大きな大きなストライプ
手には鞄と携帯電話
鞄の中には売却許可の決定に、
残代金の納付書に
ご丁寧に登記簿謄本
あいつは一言
「出て行きな。
あと十日だけ待ってやる」
十日で何が出来るものかい。
「も少し待ってはくれまいか」
地面に額をすりつける。
「いや待てない」
と大音声
それでも無理に懇願しやっともらった二週間。
しかしあっという間に二週間
なんとあいつは引渡命令携えて
執行官とやってきた。
結局俺は宿無しに
結局悲しいホームレス
ポケットにあるのは千円三枚
三千円
田舎じゃ食えないホームレス
変な形で東京へ
住まいがなければ仕事はない。
深夜喫茶で暇つぶし、
そのうち路上で寝転がり、
働く気などは消え失せて
そうかと言っても死ねないもので
いまでは上野を
塒に残飯漁り
生まれたときからのように
ホームレスという名の乞食暮らしさ。
あれっ もういねえか。