『生きてる?』
昔ちょこっとメル友やってた友達?から
メールが来て、文面がこんなんだった。
その子からのメールのタイトルは当時
メッセージフロムスカイメールとかだったので
相当前のことだと思う。
その子と知り合ったのは文化祭のライブで、
俺の弦が切れてその子のをもらったのがきっかけで、
その子のことが、好きで、
とかはどうでもいい。
「うるせえ今はジェーフォンじゃなくてソフトバンクなんだよ」
と返すと、その子からは
『私は死んでる』
とメールが返ってきた。
もうずいぶんと連絡取ってなかったんだ。
「何があっても不思議ではない」
『阪神タイガースが優勝する以外は?』
「阪神はもう優勝した。昔と何もかもが同じだと思わないでほしい」
『私のこと今でも好き?』
ケータイから、
設定している相対性理論の「LOVEずっきゅん」じゃなくて
ブランキーの「赤いタンバリン」が流れた。
当時J-Phoneのケータイに設定していたその着メロは、
その子が打ち込みで作ってくれた音だった。
「俺のことは、当時好きでしたか?」
メールが来なくなった。
メル友をやめることになったのも、こんな感じだった。
だんだんメールが返ってくることが少なくなり、
最後に送ったメールが、ちょうどこんな気持ち確認のメールだった。
その子が俺のことを好きだったはずなんかなかった。
メールはいつも俺のほうからしてて、
その子からしてくれたことはたったの一度もなかったし。
けど、「赤いタンバリン」を作ってくれたから。
Oh 愛という言葉に火をつけて燃え上がらす
いくらか未来が好きになる
Oh I want you baby,ひとは
愛し合うために生きてるって噂、本当かも
しれないぜ、赤いタンバリン
単音で、ところどころ外れているメロディが流れた。
ケータイを開くと、一言だけこう書いてあった。
『〓』
あるときその子は言った。
赤いタンバリンは、究極のラブソングなんだって。
歌のなかでは、そんなに美人じゃない女の子が
赤いタンバリンを打ち鳴らすんだって。
赤いタンバリンというのは、心臓のことをさしてるんだって。
もうメールは返せずに、
アパートの窓から遠くの空を見上げた。
ちょうど真っ赤な夕陽が山際に沈むところだった。
会ったこともない孫正義とか浅井健一のことを思ってコーヒーをすすった。
会ったことのある、女の子のことは思わなかった。
そのままで、好きという気持ちの期限について考えた。
それすらも、「何があっても不思議ではない」のだろうか?
つけっぱなしのTVでは横浜ベイスターズがボロ負けしてて
ここだけは当分優勝しそうにないので、それにすこし安心をした。
変わることもあるだろう。
生きてるんだから。
LOVE,LOVE,LOVEずっきゅん、と歌いながら
携帯を置いて買い物に出た。
すっかり暗くなった空を、送られなかったパケットが落ちていった。
初出:投稿詩 on PQs・5回戦
http://www.yuracom.com/ps/ps.html