支度
霜天

冬の支度も出来ないままに、私たちは詠い続
ける。それは約束であるかのように、寒さを
背中に背負いながら。この道、は死に行く為
の支度、だ。あの頃に見上げた空を、今もま
だ往復し続け、拾い忘れた言葉の端に躓いて
は、掌に刻み込んでいく。この道は、支度、
だ。緩やかな坂道を、それとは気付かないス
ピードで、静かに傾いていく道程だ。昨日の
声を聞きながら、酔い覚めのような重さで詠
う。誰かと交わした約束だったような、最初
からそこに存在していたような、背中に降り
積もる、重さのような。詠うための、媒体と
しての私は擦り減っていくばかりで、伝えた
いことはこんなにも増えているのに。この道
は、支度だ。死に行く為の支度だ。全てが驚
くほどの速度で生まれ、私たちは坂道を緩や
かに転がっていく、その過程だ。冬の支度も
忘れたように、私は呟くように詠い、あなた
はただ隣にいる。どれだけの事柄を留めてく
れるのか、誰もあなたに問いかけはしない。


自由詩 支度 Copyright 霜天 2009-11-07 19:46:41
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