英知
ホロウ・シカエルボク





踊りを踊るなら

山のふもとの

見晴らしのいい草原に行きなさい

夢中になり過ぎても

誰に咎められることはないから


歌を歌うなら

そのまま山に入り

巨大な木のうろの中にもぐりなさい

返ってくる声を聞いて

自分のまんなかにある響きをたしかに聞きなさい


言葉をつづるなら

さらに深く入り

森の奥の陽の差し込む場所で

木々の葉が風にそよぐ

その音に合わせて書きなさい

かたときもリズムのことを

忘れないようにしなさい


言葉をつづったなら頂上をめざし

そこから見える

いちばん遠い雲に向かってはっきりとした声で読みなさい

ふかく呼吸をしながら

あたりを騒がせないように叫びなさい

必要のない抑揚や

身振りをつけないように気をつけなさい


読んだのならば目を閉じて

その言葉がまだ自分の中に生きているかどうか確かめなさい

なぜどうしてそれを書かなければならなかったのかということを

決して突き詰めずにそれと悟りなさい

知ることが出来たなら山を下りて

こころをわけあえるものの

ぬくもりを知りなさい

あなたをつつむ空気には

どんなぶれもないのだという

そのことを知りなさい


充分なだけの知識を胸に溜めることが出来たら

そのぬくもりがさめぬうちに寝床に入りなさい

おだやかな闇の中におのれの身体を溶かすように

器官を這うような呼吸をするように気がけなさい

夢に変わる前の眠りの中に

本当の夢があることを知りなさい

その時あなたは草原であり

その時あなたは木のうろであり

その時あなたは風にそよぐ木々であり

その時あなたはいちばん遠くに見える雲なのだと知りなさい

目を閉じなさい

目を閉じて








まだ自分の中にそれが生きているかどうかしっかりと確かめなさい





自由詩 英知 Copyright ホロウ・シカエルボク 2009-11-06 22:23:59
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