なぞる
かんな



シートに座る
わたしの
手のひらから
喜びとか悲しみとか
こぼしてしまわないように
ギュッと
手を握る
瞬間がある

がたん
ごとん
揺られる列車の質感は
懐かしさと
名づけるから
あの夕陽はいつだって
追憶
と呼ばれる

小さな女の子が
ひとり
乗り込んだ駅の名まえは
きっと
希望だとか夢だとか
そんな響きがいい
ほら、あそこに
過去のわたし

ゆっくりと列車が
無人駅のホームに入る
改札も
待合室もない
名まえさえも忘れて
これを
さみしさと呼んでしまうから
季節がゆるんで
雪がふる

車窓についた
冬の手垢
なぞるわたしの指先が
訪れはじめた季節の
輪郭を描く




自由詩 なぞる Copyright かんな 2009-11-03 08:50:18
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