カミングアウト
……とある蛙

最近詩を書いていることを女房に嗅ぎつけられていると感じてきた。
この間もDSIでログなんかチェックしていて、女房が部屋に入る直前あわててDSIの電源を落としたりした。
女房曰く「なにこそこそやっているの?」「俳句でも始めたの?」と
まぁ亭主が何か書くとしても俳句のほうがお似合いだと女房は考えている。ガラという奴だ。
このまま隠しているのもしんどくなってきたので、仕方なく
「しぃ書いてるのよ」
「何そのCっていうの?」
「Cじゃないよ。詩だよ、ポエム」
「ぎゃははっ、ぎゃはっはっ、う〜(涙目で)
 詩だってぇ。あっはっはっ、ルビ(黒猫)どうしよう。 ひっひ っ」
猫に向かって何言うんだこいつ。とも思ったが、さすがにムッときて
「俺が詩を書いたらおかしいかぁ?」
と胡乱げな顔をして聞くと
「だって、あなた政治向きの話や法律の話をすることはあっても、文学的なことは一切言話題にしたことはなかった じゃない。今まで、小説だって、司馬遼太郎や池波正太郎しか読まないのに、どこで詩を書けるような生活を送ってきたの?やくざや警察を相手にしたり、不動産屋や金貸しの相談にのったりして。
 村上春樹すら読んでいないじゃない。辛気くさいとか言って。花の名前だってろくすっぽ知らないくせにさ。酒飲みすぎで素面(しらふ)の時にも 妄想が始まったんじゃないの。」

 まぁ、よくいろいろ言ってくれるものだと思い、
「俺が詩を書いたら奇妙か?」
と一応は聞いてみた。
「どんな詩書いたの?どうせあなたのことだから[僕が……][僕が……]ってのの連続でしょう。」
「うん……、まぁそうだが、……」
「あなたは自分勝手だから詩を書いたら薄気味悪い詩書くに決まっています。それを読まされる人は迷惑です(きっぱり)。」
「いやぁ。、そこまで気味悪くないと思うけど。確かに気味悪い詩は多いなぁ。自分では意識しないけど自分をある程度露出しなければ書けない。」
「でしょう。そうでなければ、勝手に言葉作って、意味の分からないモノローグ書いて、芸術だなんて訳の分からない詩なんかしかありえないわよ。」
いやぁすげぇ物言い
「でも詩を読むには素養が必要なんだ」
「そんなの詩を書いている人の勝手な妄想で、素養でも何でもなくて、つまらないものをおもしろいって無理矢理 誉めあうための方便じゃないの。あなた、生き恥さらしてないでしょうね。」

「もう80以上も書いて投稿している」
女房あきれて
「まさか私のこと書いていないでしょうね。」

「一杯書いています。」
女房憤怒の表情で、
「あなた、どれだけあなたに苦労させられたか覚えている?」「ほかに楽しみがないのならともかく、合唱はやっている、弾きもしない楽器は一杯持っている。たまにはゴルフにもゆく。この頃はまだ少なくなったけど一週間に何回かは飲みに行く。いくらでも楽しみあるでしょう」

弁明をせねばと思い、
「いやぁ、詩の中の[僕は]俺自身ではないからただモノローグを言っているわけではない。詩の中の[僕は]俺とは全く違う架空の[僕]なんだ。だから君のことを書いてもただそのまま書いているわけではない。詩で表現したいことに沿って書いているのよ。」
「じゃ嘘書いているの。」
「嘘ではないはないよ。結局自分の中にあるものか、自分で感じられるものしか表現できないのだから 生の[僕]ではないにしろ[僕]は俺と相当部分一致する。」
「何だかわからないけど、人を肴にするのはやめてね。どう考えてもあなたに詩は書けないわよ。だって、あなたが何十年も書いている文書と180度違うもの※。」

 ※基本的に実用文書は 主体が明確であり、かつ行った行為あるいは事実が一義的に明確であることが要求されます。
私の仕事でよく使われる書き方は「AはBに対して、平成21年○月○日、A方倉庫内事務所においてX商品○個を金○○○万円にて売り渡し、Bはこれを買い受けた。」などとなり、事実として必要な要素はすべてそろえ且つ簡潔な文章が原則として使われます。
基本的に事実関係の記述が曖昧であると問題点の摘示ができないということから明瞭な記述が要求されます。
 その上で問題となる事実を摘示しなければなりません。
 詩という文芸は実用文書と目的が180度違います。表現したい事柄(多くの場合一義的に摘示できない事柄)を限られた語彙の中で表現する行為です。しかも韻律を伴い、心地よい響きのある言葉を選ばねばなりません。多義的な言葉を使って表現したい事柄を余白中に示さなければなりません。そういった意味では実用文書より遙かに難しく困難な作業かもしれません。それが詩だと思います。

「でも表現したいんだよ。読むか?」
「読むわけないじゃない。まさか事務所で書いてないでしょうね」

「え〜っと 時間があればもちろん………書いてます。」
しばらく口をきいてもらえません。

「はいごめんなさい、今のは願望でした。」
「DSIでみていたのはコンサート情報です。とりあえず詩みたいなものは書いていますが、他人様にお見せするものではなく、遺書の準備です。投稿したのは気の迷いです。死んだらパソコンあけてください。遺書がたくさん入っています。もちろん遺言ではありませんので処分は勝手です。」
などと言ってそそくさと散歩に出かけようとしたところ、「何、怒っているの?今度の休み袋田の滝まで紅葉を見がてら、ドライブよ」と なぜか勝手に決めた、いや今の一言が相談なのかも知れないが、一言投げかけられた後、外に出た。

こんな状況だとそれこそ詩なんぞ見せた日には何を言われるわかったものではない。
だが、あいつのそういう思考回路に惚れたのかもしれないが。

 う〜んこの調子だと難しいぞ。詩集を作るのは。
 まだまだ、人生いや生活は続いてゆく。


散文(批評随筆小説等) カミングアウト Copyright ……とある蛙 2009-11-01 18:58:29
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