終わる世界
e.mei



10月27日 曇


僕は数を数えるのをやめた


「僕はハルシオンになったみたいだ」と に言った
 は腕を縦に切ったカッターを机に置いて力を込めた
「おけちゅるゆりかりゅ」
 はもう何を言っているのか判らないと云った風情で壁に凭れ掛かり血の泡を噴いた
「ひゅー ふひゅー」
僕は白黒テレビを見下ろしながらハルシオンを三錠のんだ
「あたしたちのことをお母さんはどう思ってるのかな?」
 はだらしなく流れる腕の血を舐めながら言った
空気はひんやりとしていた
僕は手に残っていたハルシオンを全部飲んでしまった
「訊かなわからんよ」
僕が無表情で言うと は寝転がりながら
「ならお兄ちゃんが訊いてよ」と返してきた
「僕が?」
僕はそう言いながら の止まらない血の海を見た
これはどう扱われるのだろう
 が死にでもすれば


やめたやめた


僕はその日の夕食をハルシオン五錠ですませることにした


もう日暮れが迫ってきている


 は死んだような顔をして
明日という路線に転がっている
僕は誰もいない部屋で棒線の雨に打たれながら
またひとりけがれない少女を殺してしまいました
ぼんやり光る瞳が見えますか
あれは柚子の瞳です


涙が流されていく河の果てには
白いワンピースが飾ってる


 ――きこえますか 柚子
 ――きこえますか
 ――きこえますか


僕の殺したたくさんの子供たち
青い鳥のつつくアルファベット





神様なんていない





自由詩 終わる世界 Copyright e.mei 2009-10-29 20:18:11
notebook Home 戻る