7つの夢物語
三森 攣

世界の王を殺す旅に出よう。
彼の玉座は誰も知らぬ。
蝿の大隊を導いて
馬鹿の王を殺す旅に出るのだ。
旅の支度を整えよう。
 全ての者に別れは済ませたか。
 捨てて行く物は決まったか。
 盲目の聖女に捧げる祈りはあるか。
黄昏の瞳に祝福を。
今日は日曜日。



凍えた空気は寒いだろう。
息は白く 指先の処女は奪われた。
炎が恋しいか。 燈が恋しいか。
やめておけ。 犬の追跡は執拗で
気付かれぬよう 慣れるのだ。
慎重に目を見開いてみよう。
 友の声は憶えているか。
 磁石は北を向いているか。
 たやすい賭けに勝つ気はあるか。
白霜の瞳に洗礼を。
今日は月曜日。



遠雷の音が響くだろう。
見渡す限りの草原の先。
雷光は静かに語り出す。
恐れは要らず 歩調は変えず。
聞こえぬ声に耳を傾けよう。
 丘の雲は続いているか。
 水のありかが聞こえているか。
 目を開き続ける覚悟はあるか。
蒼穹の瞳に審問を。
今日は火曜日。



もらった切符で列車に乗ろう。
市場で買ったパンはわずかに硬く
一瓶のコニャックが明るく笑うだろう。
向かいに座った少女に一輪の赤色を。
目深に被った帽子を外してみよう。
 少女の瞳は輝いているか。
 飴色の瞳は車窓の風を映しているか。
 洩れ陽の香りに憩いはあるか。
赤銅の瞳に幸運を。
今日は水曜日。



世界の地図を塗り潰そう。
歩いた地の名を消して
紙の裏まで真っ黒に
取って置きの墨を染み付けるのだ。
残った地点に隠れた玉座を絞り込もう。
 筆の軌跡は美しいか。
 墨に織り込んだ金は輝いているか。
 積荷を呑み込む執念はあるか。
黒曜の瞳に真実を。
今日は木曜日。



世界の王を殺しに行こう。
ガタガタ震えるあいつを殺しに行こう。
大鉈で地に鬨の声を穿ちながら
マントを翻して今こそ蝿の大隊を放つのだ。
金色の鍵を差し込もう。
 開かずの扉は開いたか。
 燭台の炎は揺れているか。
 一振りの刀に命はあるか。
黄金の瞳に審判を。
今日は金曜日。



夢を見よう。
歩き続けた足は砂に環し
振るい続けた腕は海に環し
優しい泥を肺に満たして
血液を霞に
秘密を遊糸にと変えて
雲の中を漂おう。
 友は笑っているか。
 聖女は目を開いたか。
 全ての者は泣いてくれたか。
碧空の瞳に安息を。
今日は土曜日。

終わりの日。









自由詩 7つの夢物語 Copyright 三森 攣 2009-10-29 02:14:42
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