グッドバイ
虹村 凌

力道山が死んだ時に
レスラーは四六時中強くなければならなくなった
横山やすしが死んだ時
芸人は四六時中面白くなければならなくなったのか?

コメディアンがいなくなった、と彼は呟いた

爆弾が落ちる時に天使達が歌わなくなったから
詩人が代わりに歌わなければならなくなった
なんて事は全然彼女も言っていない

ハリネズミみたいになった灰皿を交換しなけりゃならない
ここはファミレスでも雀荘でもパチンコ屋でも無く自分の部屋で
それでもパラダイスには変わりないのだ
缶コーヒーに突き刺さった吸い殻を見て地球に謝る

ハルクホーガンがアメリカそのものを象徴している
ディス イズ アメリカ
強靭な肉体の奥にある弱り切ったハート

青山君は何でまた特等少年院にいるのか
彼が時折見せる残虐性にそれを垣間見た気がする
きっと普段は大人しいもの静かな少年だったんだろう
彼が野菊島を訪れた時に
鞄の中には家族写真は無かったと思う
なんて事は全然彼女も言っていないけど

撃鉄を起こして引き金を
安全装置が邪魔を
喉の奥から吐き気が
空っぽの胃袋から胃液が
疲れ果てたブラウザの向こうに
泥の様に眠る携帯電話の向こうに
尿道の奥から精液が
子宮の奥から卵子が
ビルの上から人が
縄の下に人が

今日も2000人が泣いたり笑ったりできずに
今日も2000人が食べたり飲んだりできずに
今日も2000人が射精したり受精したりできずに

それ自体が奇跡なのかはよくわからない
偶然だとか必然だとかもよくわからない
ゆりかごから墓場まで運命がついてまわる
なんて事は全然彼女も言ってない
だけど今
こうして布団の中で独り煙草を加えて
白い天井を眺めている
鞄の中には明日の学校で使うものが立ち並んで
昆虫標本みたいにじっと動かずに押し黙っている

グッドバイ


自由詩 グッドバイ Copyright 虹村 凌 2009-10-28 13:09:02
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創書日和。