遠い今
美音子


真夜中のうちに明け方が訪れる 
時計の針はまだ許してはいない 
暗闇の中で睫毛を擦り合わせたまま 
指先だけが言葉を伝え続けられれば良い
旋律はより一層 研ぎ澄まされたものになる
まるで誰かの手が触れる様に 風が肌を通り過ぎて行く
数え切れない程の夜を逆さまに捲ると 
また 始まりの朝に立ち尽くす
今になっても鮮明に浮かび上がる情景
忘却という言葉は無意味になる

遠い今

形の無いものが影を手に入れる
感情はそのままに 動く事を知らない
変化は変化である事の意味を失う
重ねる度に理性は呼び覚まされる
刹那から永遠の間に薄らいで行く
そして 不確かな朝の訪れと共に消える
いくつかの光と闇との交わりが体を蝕む
完全なる無を願いながらも 手を伸ばす
言葉を投げかける事も知らずに ただ在り続ける
不確かで確かなものは 遥か遠く 側に





自由詩 遠い今 Copyright 美音子 2009-10-28 04:13:54
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