カナシミビトの森
白糸雅樹
すべての人はかならず一度は行ったことのある場所
そこがカナシミビトの森
そこに行き着く道は誰も知らないが
ふかくふかく哀しい時
いつのまにか辿りついている森
そこにはカナシミビトが住んでいる
人が哀しむ時
傍らにはカナシミビトが現れる
そして不器用に
歌ったり踊ったりしてその人を慰めようとするのだが
あまりにも不器用で下手な歌と踊りなので、ちっとも慰めにはならないのだ
カナシミビトが現れた場所は
すなわちカナシミビトの森になる
人は気がつけばそこにいる
だからそこに行く道は知らなくてもいい
ふかく哀しい時に必ず辿りつく森
しずかで深い針葉樹
ゆれる薄い色の花
おだやかな池の色
甲高く響きわたるカナシミビトの歌
へたくそなその歌と踊りの一生懸命さに
人がふと
自分の哀しみをよそにくすっと笑ってしまった時
その時
人はもう
カナシミビトの森にはいない
カナシミビトは消滅する
なぜならば人が深い哀しみにひたってはいないから
カナシミビトは知っている
自分が一生懸命歌って踊れば
それが成功すれば
自分は消滅することを
それでも歌わずにはいられない
それでも踊らずにはいられない
それがカナシミビト
2009.10.21
(原案:奥主榮)