『あなたの背中を昇る龍』
東雲 李葉

久々に会ったのに眉間に皺を寄せながら、
相変わらず難しい話ばかりしている。
とりあえず分かった振りをしたりしながら、
窮屈そうに生きている大きな背中に腕を回す。
あなたはいつも私の知らない世界にいるみたい。
眼光鋭い緑の龍に爪を立てて。
捕まえたって笑って初めて、あなたは生きてる顔をする。
虚ろだった両目にやっと私だけを映し出す。


心地好いまどろみの中でかすかに感じる。
不器用そうに頬を撫でる熱のある掌。
とりあえず眠った振りでそれを受け入れて、
ほんの束の間の幸せを泣きたいほどに感じるの。
明け方には慌ただしく上着を羽織って、
私の知らない誰彼とお仕事に行ってしまうのね。
もう大人ですもの、悲しくはない。
だけど、お願い。どうか無事に帰って来て。


赤い傷。真新しいから触れると濡れて。
指を這わすと顔をしかめる。あなたがあなたが誰より好き。
お願い、何処にも行かないで。私を置いて行かないで。
もしもの時には電話を頂戴。
裸足のままで飛び出して真っ赤なあなたを抱き締めるから。


初めて会ったあの日からあなたは少し変わったわ。
でも相変わらず龍はあなたの背中を昇る。
とりあえず逃がさないようにと、
窮屈そうに生きている大きな背中に腕を回す。
あなたはきっと私と違う世界の人なのね。
そこはきっと棺のように薄暗くて動けない。
息継ぎでも構わないからどうか私を離さないで。
私もあなたの背中の龍ごとあなたを捕えて離さないから。


銀の光、携えて狭い道を行く足取り。
交わることの無い二人の未来に別れが待っていたとしても、
お願い、何処にも行かないで。私を置いて行かないで。
もしもの時にはあなたの背中の、
真っ赤な瞳に口を付け鱗に刃を突き立てるから。


自由詩 『あなたの背中を昇る龍』 Copyright 東雲 李葉 2009-10-23 21:52:40
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