ちひろ/山手線
ヘンナー・キョニューりな

半分

どんなおじさんにでも
その時だけ恋をしてしまう女の子がいる
父の日にプレゼントを贈り続ける女の子がいる
おじさんとセックスしてお金を貰う女の子がいる

半分お金で半分趣味らしい
半分幸せで半分寂しいらしい
半分知られたくなくて半分知られたいらしい
あとには
半分が残るらしい


わたしたちマンコ壊れたって笑いながら
スクランブル交差点
ぺらぺらで平坦な感情の上を歩くようにして
振り返らないようにして

お客さんの大体は
アイロンのかかったシャツからネクタイを外して
僕は一番家族が、すごい好きなんだ、とまっすぐに笑う男の人

背景を想像するだけで
少し優しい気持ちになるよって
話したくて

かつては粘膜と粘膜を擦り合わせる
恐ろしい行為だったはずなのに
ラブホテルはラブホテルという名前にしっくりくるし
客だった不倫相手の子供の名前は死ぬほど可愛くて
だめだーって思ったし

ちひろちゃんはこんなとこにいてほしくないよね
体を大切にして
体を大切にしてってどういうことだろうって
真剣に考え込んでしまうのだ
それでも心を大切にしてはなんとなくわかる
風俗嬢たち

体と体の間に言葉が溢れて口に出したそばから嘘にして
近づけないようにしてしまう

出勤時間以外は寝てるかタバコ吸ってる
彼氏いるの 
うんホスト
彼氏いるの
うん一緒に住んでる
今日も行ってらっしゃいって笑顔で送り出してたし

自立してない人キライー

家がないねん
15の時からここ家みたいなもんやし

18番アイさんは
私結婚するんだ、と幸せそうに言って
菓子折まで置いてった
さまざま思い

深夜の託児所に迎えに行くと
かわいい女の子がランドセルをしょったままお母さんと
ディズニープリンセスの話をしながら
すやすや寝てしまう

ごくたまに彼女たちは
おばあちゃんの話をする

精液が尿道を通ってしまったら
物語が一つ終わってしまったみたいに虚しい
すっからかんのきんたまをぶら下げて
それぞれ帰る家に帰るのだ
おおさじ1くらいの白濁した精液の
何時間ぶんの何日間ぶんの物語をティッシュにくるんで始末していく

ぐるぐるぐるぐる続いてく
山手線みたいに続いてく

高架下の安い居酒屋
月曜から金曜までサラリーマンでいっぱいで
それを横目に今日働いたぶんの給料を取りに行く

徹底的にぶっ壊したこころの
壊しきれなかった端っこに引っかかる
ほんの
揺らいだぶんだけ
やさしく

少しだけ距離の近くなった人たちのことを思い出す
もしかしたらちひろ
ドアの向こうで繰り広げられる90分は
なによりも近くて
安心だったのかもしれない


わたしもいつか家族を持つのかな
そうしたら
高架下
山手線

つまり
ささやかな幸せが東京を一周してるって話
誰かに聞いてほしいなあ




 



自由詩 ちひろ/山手線 Copyright ヘンナー・キョニューりな 2009-10-21 21:24:25
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