光景
草野春心




  すがる手を拒むように
  早朝の冷気はすべすべしている
  僕……僕は空き缶を捨てるため出かける
  眠っているはずの街は
  どこかうるさく感じられる
  ちぐはぐな大きさの音のかけらが
  そこらで飛び跳ねている



  シケたゴミ箱がアパートの脇にあって
  口のところにこんな張り紙がしてある
  「関係ないゴミを捨てるなよ、コラ!」
  と言うけれど関係ないゴミというのが
  何のことなのかサッパリわからない
  ともあれ空き缶を十個ほど
  まとめて捨てるとすごく清々する



  ついでに僕のこの両手も切り離して
  捨ててしまったら……僕のこの言葉も
  細かく千切って捨ててしまったら
  (「関係ないゴミを捨てるなよ」)



  自販機はせっせとコカ・コーラを冷やしている
  コカ・コーラは飲み干され排出され海に還る
  コカ・コーラの缶は手に取られ潰され再利用される
  僕の両手は生きてそれから死ぬだけだ
  言葉は心から心へ跳び移ってゆく
  そして



  そこまで考えて僕は煙草に火をつける
  早朝の空気はたえまなくその表情を変えて
  それでいて一貫してひやりとしている
  何かを決意した女のように



  言葉は光景を愛している
  でも光景のほうが言葉を愛してくれたことは一度も無い
  言葉は光景を愛している
  ひたすら
  それは気高いことだ



  僕はいつかクロード・モネの
  「印象・日の出」のような詩を書いてみたい






自由詩 光景 Copyright 草野春心 2009-10-18 19:03:15
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