チャルメラ ☆
atsuchan69

その摩訶不思議な調べは、
けして妖魔を封じる術の音などではない
草木も眠る丑三の刻にひびく――
あえて眠らぬ者たちへと告げる、
慈・悲・喜・捨の警笛だ

幽かに香水の匂う背広を纏って
俺は上品ぶった女狐の巣窟から俄然とび出し
水玉のクラバットをまだ頭に巻いたまま
人気ない路地の暗がりで大きく、
さかんにパーの手を振る

 おーい、チャルメラの親仁ぃ〜

とことん酒を呑んだ俺の身体が、
なんだか薄切りの叉焼だの鳴門だの
少し異臭のする支那竹だの、
青い薬味の葱だの海苔だの半熟の煮卵だのが載った
仄かに淡褐色をおびた鶏殻ベース醤油味の
夜の深みが縮れ麺に滲みて、ギラつく油がスープに浮いた
さも下品な汁に浸った中太なやつを欲しがる

今どきネットで注文、
全国津々浦々どこでもお望みの品を
何だって迅速にお届けしますってご時世によう
小汚い屋台ひいて古びたチャルメラ鳴らしてらぁ )))
 と、思いきや
屋根にはスピーカーが付いている。

――寒くはないのかい?
やたら薄っぺらい草履を履いて、
毛玉だらけのマフラーを首に巻いてさ
黒のヴァルスターっぽい、まがいモンのやつを
なんともダサく着た親仁ってば!

どうでもいいから、その不味いラーメンを
は、は、早く俺に食わせろ!







自由詩 チャルメラ ☆ Copyright atsuchan69 2009-10-16 19:31:36
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