時を見つめていたピアノ
こめ

誰も居ない街の

小さな家の壊れて音がでなくなった

ピアノの前に腰掛け

ふうっと大きな息を吐いて

埃まみれな黒のボディを見えるようにしてやった

そして音の出ない鍵盤を必死に叩いた

勿論音なんてでるわけがなかったけど

それでも構わなかった

この街に一人取り残された

時を見つめていたピアノは

誰かに存在を知ってほしかったから

だから僕はここにいると

ひねりあげるように叫ぶ

音はでない

だけど聞こえる

ちゃんと聞こえる

世界にこだますように

この悲しいけれどどこか

耳に残る音楽が

今この街から風に乗っかって

そのままモンスーンにも乗っかって

世界を1台のピアノが包みこむ

孤独には勇気を与え

怒りには優しさを

せつなさには和らぎを

そんな音楽は人々は魅了した

ただ一度だけしか奏でられなかったけれども

それでも良かったらしい

最後にみんなに聞いて貰えたからと言って

その世界に一台しかないピアノは

うごかなくなった

だから僕はゆっくりとピアノの蓋を閉め鍵をかけ

何処までも続く青い空に

鍵を投げ込んだんだ



自由詩 時を見つめていたピアノ Copyright こめ 2009-10-16 14:35:52
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