オーロラ
yo-yo

ゆうがた 河川敷でキャッチボールをする
おじさんとの日課だった
しばしば深い草むらにボールを見失う
ボールは地球の卵だからな
すぐに地球のふところに帰りたがるのさ
おじさんの口ぐせだった


いつかアラスカに行こう
それも おじさんの口ぐせだった
地球のてっぺんでオーロラを見ようぜ


ぼくがインフルエンザにかかって
三十九度の熱にうなされているとき
ほら地球の卵だ かわいがってやんな
ぼくの枕元にボールを放り投げて
おじさんはアラスカへ行ってしまった


そいつは
日当たりの良いところ
風通しの良いところが好きなんだ
ときどき きれいに洗ってやること
ときには耳を押しあてて やさしく胎動を聞いてやること
そうすりゃいつか めんこい地球の子が孵るだろうさ


おじさんからメールが届いた
もしもヒグマと遭遇したら
おれはヒグマを殺すかもしれない
あるいは星野のように
ヒグマに殺されるかもしれない
生き物はいちどしか生まれてこないが
オーロラはいくどでも生まれてくるんだ
おまえの地球だって
うまくいけば再生を続けるだろう


ベランダの隅で
地球の卵は転がっている
秋の陽を浴びて風に吹かれている
胎動はまだ聞いたことがない
白夜のような明るい夜
濡れたボールのてっぺんから
きれいなオーロラが生まれるかもしれない



(星野=星野道夫のこと。アラスカでヒグマに襲われて命を落とした写真家)










自由詩 オーロラ Copyright yo-yo 2009-10-16 06:31:06
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