炎の鳥 ー雪の降る、家持の庭と夜空に響く、コルトレーンー
服部 剛
嘗
(
かつ
)
ての僕は頼りなく
些細なことで今にも崩れ落ちそうな
不安な、不安な
青白い魂でした・・・
今の僕は
昔の服を脱ぎ棄て
無明の闇に、瞳を閉じ
高まる胸に、手をあて
宇宙の果ての何処からか
銀河の流れに運ばれる
コルトレーンの抱くサックスの叫びと
朔太郎の囁く不思議な声が
微かに鼓膜を、震わせる
「日々を愛し、汝の欲する事を為せ・・・」
布団を被り
眠りの底へ落ちる時
遥かな過去へと
遡
(
さかのぼ
)
る
「夢の窓」には映るのです
奈良時代の
家持
(
やかもち
)
が
黒い哀しみを胸に抱えて立ち尽くす
深夜の寺の庭園に舞う
粉雪達の、密かな
詩
(
うた
)
ふりつもれ
ふりつもれ・・・
全ての哀しい大地さえ
覆い尽くしてしまう程
ましろい雪の歓びよ
深々と深々と・・・
石塔にたった一つの灯のともる
深夜の寺の庭園に
塵々と燃え出ずる
炎の粉雪達よ
ふりつもれ
ふりつもれ・・・
(仰いだ夜の上空に、炎の鳥は、翔けて往く)
嘗ては余りに青白く
詩人を夢見た魂は
弱ささえも抱き締めながら
やがて独り、立ち上がる
「いざ往かん、空白の日々へ!」
天上の作家が筆を握る
筋書きの無いこれからの物語に描かれる
日々の舞台の中心へ
たった一つの叫びを秘めて
古
(
いにしえ
)
の
御国
(
みくに
)
から、地上へ
翼を広げて舞い降りて来る
炎の鳥
自由詩
炎の鳥 ー雪の降る、家持の庭と夜空に響く、コルトレーンー
Copyright
服部 剛
2009-10-13 20:24:53
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