イカロスの虹
木立 悟
空を鼓のように張り
鳥は屋根を踏み鳴らす
糖蜜の文字
光の名前
爪と半球
蛇行と水源
凍った川をすぎる雨
降る無音 降る無音
午後の光がゆっくり話す
涸れた池が 浮かび 沈む
遠い遠い さらに遠い灯
つらなりのむこうから昇るうた
崖 岬 境
乾きすぎて燃える原
次の季節まで
燃えつづける原
弦の水 指の色
ふたつの不可避が鳴らす歯車
そのままのそのままの
器に潜む輪の刃物
閉じた絵本 眠れぬ眠り
望みどおりに午後を延ばしても
ひらきはじめた夜は戻らず
閉じたまぶたをただ聴くばかり
誰もいない街の奥ほど
走りまわる花冠は多く
道はまぶしく
音は見えない
遠回りも近道も
似ていながらにくりかえす
たどりつけない崖を岬を
境を巡り 巡りつづける
花の重さ ちぎれた言葉
映し受け取り 計る手のひら
午後に途切れるすべての行方
堕ちる軌跡に鳴りわたる