ラムネに贈る
空都

サイダーみたいに爽やかじゃなくて
もっとまどろっこしい
ラムネみたいな


あの記憶がラムネ瓶の中のビー玉だとすれば
今もまだ胸の中で栓をしているんだ。

『いい思い出だったね』
なんて言えるほどすがすがしい記憶じゃないが
『ありがとう』
と言えば綺麗事で終わるんだろう



そんなの許されるのかな




延々と降り注いでいた霧雨が
いつの間にか弱まっていたとき


最後の笛がなった



夕闇にまぎれた君の顔は
そのとき暗くてよく見えなかったけれど
近づいてきたとき
泣いていたって判ったんだ
泣いていない人はいなくて
皆おもいおもいの恰好で
声を殺して泣いていた
ひとしきり天を見上げていた君は
ため息を吸い込むと

大きく二回

手を叩いた
そこにいた人は皆君の方を見ていたけれど
充実感のある晴れやかな顔がそこにあるかは

自分には良くわからなかったよ

全員に向かって頭を下げた
君の肩の震えをみて

これは青春ごっこなんかじゃなくて
本物の血や肉のある戦いだったって

改めて感じた

ここにあるのは
偽物じみた爽やかさじゃなくて


本当の悔しさだけなんだ





こんな記憶を忘れる日がくるのかな
悔しさが滲んだあの日の君の顔が
薄れる日がくるとは到底思えないよ

ラムネを飲みながら君と帰る夜道で
小さな声で話をした
本当に話したかったのはこんなことじゃないんだ
自分にも良くわからないんだけれど
君も感じているのかな

何年後かに君とまた出会ったなら
その時はちゃんと顔を見て
本当のことを言えるだろうか

今みたいに誤魔化さないで
言えるようになったら
今と同じ気持ちで


君に会う

きっと
それまでラムネを飲むたびに思い出すよ
あの日と君のこと




こんど
またどこかで


ラムネでも飲もうか。



自由詩 ラムネに贈る Copyright 空都 2009-10-09 18:31:28
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