夜に木になる
テシノ
その夜 声を盗まれて
お前と私が立ち尽くす
肩まで降りてきた空を
世界を
二人で支え合う
それが何故私達なのかもわからずに
拳を握って立っていた
足が地面に減り込んだ
このままでは朝までに
私達は木になる
木になってしまうのだろう
腕を伸ばして絡み合い
そのまま一つの幹となる
それでいいと思いながら
いいや 愛してなどいない
愛してなどいなかった
ある日西から旅人が来て
大木の幹にもたれていた
東からの旅人を呼び止め
互いの旅路の景色を語り
故郷の様子を少し偽り
一陣の風に口をつぐんで
ひそやかな涙を流す
声は
声は聞こえているか
私達が愛さなかった理由が
私達が交わさなかった言葉が
細かく寸断されて景色に織り込まれ
目よ耳に伝えてくれ
旅人の目よどうか彼の耳に
音楽を少し湛えたまま
まどろむ怠惰な耳の奥に
愛してなどいない
愛したかったのだ
これは
罰か
愛さずに求めた二人を一つに纏めあげて
もう
お前となった私を
私となったお前を
求め合う事は二度とないという
愛し合ったという罰の木か
それでいいと思いながら
お前と私が朝を待つ