仲秋の名月
あ。

週末の三条大橋はちょっとしたお祭りだ
駅から出てくる人と駅に向かう人
遊びに繰り出す人と帰宅途中の人
お酒や香水のにおいが混じりあい
鴨川では小さなジャズライブが行われている


駅に向かう人間のわたしは
厚いサックスの音を耳に挟みながら歩く
夕飯のメニューを考えながら
冷蔵庫に何が残っていたかを思い出しながら


人ごみに息苦しくなって顔を上げると
浮かぶ満月が瞳に飛び込む
朝にテレビで幾度となく繰り返された
仲秋の名月という言葉が活字になって脳内に踊る


都会が明るすぎるせいだろうか
月がまぶしすぎるせいだろうか
辺りに星や雲の姿を見ることは出来ず
あまりにもそれはひとりぼっちで


混雑を知らないことが幸なのか不幸なのか
知ってしまっているわたしにはわからないけれど


地元の駅についてから和菓子屋に立ち寄り
小さな月見団子を二つ買った
いつもよりほんの少し控え目の夕飯を済ませ
ベランダの窓を大きく開ける


風流な縁側もないけれど
小さなベランダから見上げる月は
大橋から見るものとまるで変わりなく


まあるいね
うん、まあるいね
かわいいね
うん、かわいいね


昨日と同じ夜は過ぎる
わたしは月に見惚れたふりをして
きみの横顔をそっと盗み見る


自由詩 仲秋の名月 Copyright あ。 2009-10-05 20:03:49
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