深緑
フミタケ

すえ永い福の西
各駅で降りる
八幡様が好きだった
でもいつからか裏切ったような気持ちで
お参りはしていなかった
日曜日の境内はそれでも静かで
巫女が作務衣の神職に何か指示を仰いでるのを遠目にながめる
写真に写す緑は逆光が美しく
何かが清々しく映り込む
いつでもそう
鳥居の周囲の写真にはそんな光が映る
誰が映したものでも
瑞々しく癒される
胸の奥の絶対零度の井戸から何かが震えて溢れ出し
歩を進める揺らぎのリズムを早足にする
お参りをして
にれいにはくしゅいちれい
混濁する願い
忘れて、ただ心を静かにし
顔を上げて、脇によけ人に譲り
拝殿を眺める。
埃ひとつないそこには沢山のお神酒
奥には御神饌
お米
お水


野菜
果物
その向こうの開かずの扉の先には
神様がいて
ここが宇宙船なんだってことに気付くんだって
授与所でご由緒書きとお守りを求める
やさしそうな笑顔の、白い袴をはいた新人の60代の神職が一瞬見せる
厳しい気配
それはむしろ人間社会の生々しさを感じさせる
溢れ出した何かは去り
夏の日差しが、肌に帰ってきて
ジャリジャリと歩く

昨日ふと思ったのは
自分はいつも車を運転しているか、電車に乗っているか、アスファルトを歩いているかだなぁ
でも、おかげで靴を汚さないし、それはいいのだけれどなぁ
その翌日、井の頭線を降りて
ペコちゃんのレストランを通り過ぎ、
地図も持たずにアスファルトの上を歩き続け、
信号待ちで日差しをよける
白く光る街にあらわれる深緑
僕は今こうして砂利の上を歩いてる。
神社の敷地を隅から隅へと歩いていたら
いつの間にか森へ出て土の上を歩いていた
遠くの方で子供たちの嬌声がこだましてきて
公園がすぐ隣にある事を思い出す
すぐ下にその公園があるのが木々の間から見えたのだけれど、
どうやってそこへ行けばいいのか見つからないまま、
聞こえてくる声たちをたよりに歩いてみる
まるで僕を誘うかのように聞こえてくる


そして声
だけど歩いても歩いても、その声との距離は縮まらない
縮まらないまま僕は森を抜けていた
そこはさっき来た参道の入り口で、
その脇の坂道の下に
公園の入り口を見つけた
そこに流れる小さな川に沿って
区をまたいだ公園はあった
だけどやっぱり子供たちの声はずっと離れたまま縮まらない
縮まらないままに湧いてくる好奇心のそれで
僕は公園に足を踏み入れる。
その先にはきっと何かがまっていて、
今まで見た事ないような
あるいはそこへ来てよかったと思えるような光景に出会えるはず
その光景の中に自分がいる事を嬉しく思うはずと
駅で買ったペットボトルを握りしめ
歌う
ミネラルウォーター
ミネラルウォーター
雨が降るんじゃないかって
昨日君に話したんだ
でもどうやら今日はずっと曇っているだけみたいで、日差しも差し込む
出かけるのが遅くなったけど、日差しはやっぱり強いので、
遅い午後にここを歩くのがちょうど良かった
地図はなく
君の面影だけをたよりに初めて来た
杉並区大宮

写真に撮りながら人のいないベンチの列を見つめる
昼間から無人のベンチ
遠くにこだまする子供たちの嬌声
公園の森の音を聞いている
どこまでも続く公園をすこしづつペースを落として歩く
曲がりくねる道は、北へ向かうのか西へ向かうのか
自分がどこにいるのかさえ分からなくなってくる
緑がくるいざいている薄暗い公園の足下には枯れ葉
そう腐葉土にするための
程よい量に遺された冬の足跡
同じ深緑だけど
公園の空気は神社とは違うねやっぱり
木々の間から見える空はまるでガス・ヴァン・サントの映画に出てくるそれみたいだし
ここは
ミケランジェロ・アントニオーニの『欲望』に出てくる公園にあまりにも似ているよ
まるでデビッド・ヘミングスになったみたいに途方に暮れ
歩き疲れてベンチに座る
気付かなかった景色が見えたけれど
デジカメのバッテリーが切れてもう撮る事ができない
充電したばかりなのに

後で聞いた話ではその時虹がかかっていたって
みんなが写真に撮ってみせてくれた
全然気がつかなかった僕は
公園の木々がくれるやさしい風にさそわれて
思いを馳せていたんだ
誰にも出会わなかったよ
声は遠くでこだましたまま
男の子が思いっきり走ってきて
女の子が滑り台を滑って
ブランコで男の子はのけぞった視線でひっくり返った世界を見つめる
釣り堀から湯気がたち
女の子はボールを追いかける
そんな映像がみえるばかりの
誰もいない休日の広大な公園で
考えていたのは一人の人の事だけ
君はどんな風に歩いていたの?
大切に思うこの場所を
夏にくるなんて馬鹿みたいだって
来るなら秋だよって、笑うんだ


自由詩 深緑 Copyright フミタケ 2009-10-04 18:35:23
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