おとずれる時
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朝がくる
今生きる日を照らしながら
遠いどこかの仄めく闇から
それを私は今日と呼ぶ

それが晴れでも曇りでも
朝は今もどこかで
夜の間に澱した人の哀しみを
綺麗に振り払いながら

それを私は、今日と呼ぶ

 *

木漏れ日の中を落ちる金色の葉が風に口づけ悦びに回る

川の流れに身をまかせる少年の鞄でおにぎりが冷えてゆく

地雷の上を鳥が渡る行き先の国で扉がバタンと閉じられる

老人の背中が真っ直ぐしていた頃の手紙が机の奥でひとり開く

色褪せながら卵を産み落とした蝶からこぼれた鱗粉の付いた蜜柑がテーブルに転がる

 *

全ての物には
時が訪れる

花に雨が降る
雨が花になる

街の上に街が築かれ
静かに砂漠が拡がる

男が銃を構え
暗闇に光る瞳に狙いを定める

女が菜箸で
大根を返す

 ・

時は自分の心に気づいたあの日
見えない筈の真昼に流星を見る
時は君の子どもの名前を共に探した
私達を名付けた親が流したなみだの意味を気づく

あの日空に返した風船の赤も
途中どこかに落ちたとしても
時がくれば
いつかまたこの空に帰ってくるのを私は見るだろう
人にあしたがある限り
あかるい結晶になって

夜毎祖母の夢となって枕に滲む時は
予期しえぬ報せで誰かを傷つけた時は
時に自信を失い立ち尽くし
しかしその時に屈することなくまた歩みはじめる

 ・

時は破壊を司りながら
愛のことばを囁く

鏡の中で向きも変えず
それを私は今この瞬間に例える

まだ見ぬ笑みの子
着床する卵

星の生と死
神々が兆す

遠く拡がる

雨垂れのね







自由詩 おとずれる時 Copyright soft_machine 2009-10-02 14:53:33
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