ゴヤブラック
ゆえづ


判定窓がニヤリと陰性を示したので
私は軽やかに手を振り
妊娠検査薬をゴミ箱に投げ入れた
奇形の子を孕むつもりはないけれど
薬漬けの身体で抱かれることに
何のためらいもないんだ

不意にからえずく
のたうち回るほどむず痒い
膝小僧みたいに擦れたこの畳と
かさかさ笑いながら私は
血塊が下りる感覚を待っている


ああ 無駄に生きた


チューブからひり出す由々しき黒が
画布の上で張りついた
艶やかにうねる水飴めいたため息と
あんたの頬に力強く刻まれた
その皺そっくりに渇き

死んだ
そうして私の子宮は死んだんだ



本日ハ晴天ナリ
本日ハ晴天ナリ

向かいの鶏が鳴いた


私は明るいベッドに横たわったまま
ぼんやりと眺めていた
壁のひび割れに塗り込められていくモルタルを
左官屋の手つきは軽やかだ




自由詩 ゴヤブラック Copyright ゆえづ 2009-10-01 08:51:00
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