リアリストと月
あ。

夜の散歩中に迷い込んだ名も知らない小さな神社は
まちあかりも遮ってしまう茂みに覆われている


自他共に認めるリアリストのわたしでも
物の怪の姿を探してしまいそうになり
風で葉がこすれるかさかさとした音も
見えない誰かのささやき声ではないかと
あらぬ疑いをかけてしまう


星の数が増えていると感じたのは
恐らくあかりがないせいなのだろう
余分なものが省かれているばかりか
必要なものまでが足りないようなこの空間で
頼りない星の瞬きだけが唯一の存在物のようで


夜風がもう一度大きく吹き
茂みがざあっと鳴き声をあげる
目の前を通り過ぎる一枚の葉っぱを視線が追う


ふらふらと舞い飛んでいた葉っぱはやがて闇に溶け
追うのを諦めた視線を再び空へ戻す
先ほどの風で千切れた雲が薄くのびて流れてゆき
下弦の月がその向こう側から不意に顔を出す


太陽よりも強い光を持たない月は
編み目の粗い繊維みたいな雲のすき間から
触れたら折れてしまいそうなほどにか細い光を放ち
それは薄命の美人を連想させ
全ての美しさが永遠ではないことを嘆く


泣きたい気分で胸が詰まりそうになったとき
茂みの向こうから聞こえる木を打つ甲高い音と
火の用心を唱えている男性達の野太い声が聞こえ
それをきっかけにリアリストに戻ったわたしは
茂みを抜けていつもの散歩道まで引き返すと
自動販売機でペットボトルのコーラを買った


自由詩 リアリストと月 Copyright あ。 2009-09-29 17:58:29
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