井の中の蛙
……とある蛙

朝の薄闇の中

漸く日の光にあたるはずだった蛙は
また暗く深い井戸に
引っ張られ

ボッチャン

暗い闇と死骸の腐敗した臭いの充満した井戸
這い上るはずの壁はあるのだが
真っ暗闇でしかも湿気でぬらぬらしている

二年前登ったときの手掛かりは
今はぬるぬるした苔に埋もれてしまい
小さく平べったい蛙の手にはひっかからない。

絶望的なのに蛙には実感がない。
悲劇的なのに蛙には自分が見えない。
だれにも相談できず
だれにも告白できず

暗い暗い井戸の中
井戸の外からの優しさなどは何の慰めにもならない。
蛙の悲しい現実が
真っ暗な井戸の水面に蛙と一緒に浮かんでいる。

このまま澱んだ井戸の底へ
静かにゆっくり沈んでゆく
白い腹を見せながら
ゆっくり沈んでゆく


自由詩 井の中の蛙 Copyright ……とある蛙 2009-09-29 12:09:09
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