感性は年齢に捕われない。あくまでも自由だ。そんな当たり前のことを
あらためて認識させられる、そんな印象を持った。
あとがきには「八十四回目の春を迎えて」と記されている。勿論、高齢
に達っしているベテランの詩人の方は多く、珍しいことではない。只ふと
作中によぎる抒情性の初々しさに、年代を超えた「詩ごころ」というもの
を感じずにはいられない。
雨である/小雨である/私はパリの街角で小雨に濡れる/夢の中でだか
ら/私にもこのようなことが起こる/私は小雨に濡れながらパリジェン
ヌを待っている
(「夢について」)
この作品の中ではほんの数行だが、しっとりとした甘やかさが醸し出さ
れている。淡々と語る文章が多い中でだからこそ、立ちあがってくる。こ
こに岩盤の隙間に咲く新鮮な花を発見したような気がした。
題名の『見ることから』はリルケの『マルテの手記』の影響などで「見
ることから始め、そして学んで行くことにしよう」と心に決めたとあとが
きで述べられている。そうやって真摯な目がもたらすものは形となり、こ
れまで数々の作品を生み出してきた所以なのであろう。
積み重ねられてきた年月の深みも加わり、詩集も今回で八冊目になる。
だが、それを感じさせないほどの意欲的で新鮮な感性の源泉が、今なおこ
んこんと湧き出ている一冊なのである。
2009年『詩と思想』9月号掲載