200×年○月△日
捨て彦

全然気にも留めてなくてなんとなく続けてた女からのメールがある日途絶えたけど別にかまわんと思ってた。おれは以前それ系の会社にちょっとの間居たのでそこら辺の勝手は普通の人より分かっている方だ。なのでその子の事なんかすっかり忘れて別の女とメールしてたが、しばらくしてその女からまたメールが来た。パソコンが壊れてメールが出来なかったとか言ってたけど、そんなのは別にどうでも良かった。おれがイマイチこの女の子に対して気が乗らなかった理由はやたらと話題を振って話しを繋げてくるがっつき具合だからで、なんだかこっちがあれれとうろたえてしまうような調子だし、そこは男の役割やろ、と思いながら久しぶりやなーとかゆってダラダラメールだけは続けてた。
なんだかんだでメール再開しだしてから2ヶ月くらい経ったとき、向こうが写メールを交換しようと言ってきたので交換したら、かなり可愛い顔の写メールが来たのでおれは椅子からぶっ倒れた。これはかなり予想外の展開だった。多分ぶっ倒れた椅子から起き上がって返信するのに二秒かからなかったと思う。こっちから会おうと言う前に向こうから会おうと言うニュアンスを含んだメールが来たので了解した。それはもう秋の終わり頃だった。

女がどこそこの駅に行きたいとか言うので、そこで待ち合わせをすることになった。そこは海沿いの駅だった。秋の日に、夕暮れちょい前の海で出会うというのは、おれはちょっとこれは実はとても嘘なんじゃないかと思ってしばらく焦った。だけどそんな事態は全く当然に訪れて、映画みたいな演出もBGMもなかった。駅前で待ち合わせしてたら「ちょっと遅れるから近くのマクド入っとって」って言われたがマクドがどこか分からなくてしばらく右往左往していたら実はすぐそこにあった。灯台下暗しだった。脳が。注文してたら電話が掛かってきた。着いたと言った。おれはジンジャエールを頼んで商品を待っていると背中を叩かれた。振り向くと女は遅れてごめんと言った。おれは「おお!」と言って返事をした。おおとは一体全体なんぞいや。

マクドを買って駅から海っかわに渡った。海がよく見渡せるこの駅には、よくおっさんが立って海を眺めている。みんな海を眺めながらそれぞれなんらかのなにかしらにモンモンと思いを馳せているのだ。一人のおっさんが欄干にビールを置いていた。おれはビール買いたいなと思った。
砂浜のほうに出ると涼しかった。まだそんなに寒くはなかったし、日はまだ暖かかった。女はとても可愛いかったしおれはそのことをそのまま女にお伝えした。女は「そうでもないでー」と言った。潮が防波堤近くまで打ち付けるところで座ってマクドを食べた。こんなんでええの?と聞いたら別にいいと言った。それからしばらくマクド食べてぼーっと海を見て、どうでもいいことを割りと話した。もう大分メールしてたせいか最初は緊張したものの全然普通に喋れた。どっちもそんなに騒ぐようなタチではなかったから丁度良かった。

どこに住んでるのか聞いたら大分遠いところだった。田舎やん、って言ったらそうやと言って笑った。よくは分からんけど中核市の隣町とかそんなところだった。
「そんな遠い所から来たんやったらこっちから行けばよかったなぁ」
「別にええねん。あたしここの海見たかったし」
「あんまこうへんの?」
「何回か昔来たことあんねんけど」
「ほな良かったな」
「あたし夕暮れの海好きやわ」
向こうのほうで漁船がぼーっと音を立ててゆっくり動いている。んでところどころに浮きがプカプカしていた。水面は夕日できらきらしてたのでおれはもう勘弁してほしいなぁと思った。この女はどことなく性格が自分とよく似ている気がしたのでとても楽しかったけど辛かった。その後、どっちからともなく手を繋いで寂れたラブホに行った。潮風にビルの外壁やら看板がすっかりやられてて中に入ったら部屋選ぶボタンが壊れてた。なんやこれーって一緒に笑った。
それからちょっとの間その子とは続いたけど、おれが職場で骨折して入院してから連絡取らなくなって、なんとなく自然に消滅した。




散文(批評随筆小説等) 200×年○月△日 Copyright 捨て彦 2009-09-25 00:08:03
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