毛虫
ヨルノテガム







木から黒い実がパラパラ落ちて少女の肩をたたく
少女の肩カバンには財布、化粧ポーチ、タオル、日記メモ帳、
携帯、ティッシュ三つ、ミニサイズのクマのぬいぐるみが
隅に座っている

停留所の道沿いのベンチに腰掛けて汗をぬぐう 横にも
ハゲにピアスのごっついオカマのおじさんが汗をぬぐっている
派手なシャツの 日に焼けた丸いオカマはじっとりと
手うちわをして小さな鼻歌をもらす

少女の白い手が首まわりをタオルでなぞり やがて
折り返してくるバスの行方を眺めていると
左手は無意識に右手の甲を掻き出していた
ごついオカマをよく見ると音楽を聴いていたようで
コンパクトな機器のようなものを取り出し少しいじった

涼しい澄んだ風が一時 吹き抜けて

秋、食欲の秋! 
さあ食欲の秋以外もやって来なさいな風である。
左手が首を掻きむしっていると右手の甲の小指の下らへんに
虫型の赤い筋跡が腫れ上がっているのを知る
皮膚が収縮していくように様態を変え、
何刺されだろう?と何度もこすりつけていると熱を持ち 
ますます異形の文様は刻印されていく
白いタオルの小さな黒塊の その小さな丸黒い顔と目が合うと
少女は目をひんむいて声も出ず 振り払った
体中をあちらこちらひたすら振り払いまわる
少女の白い手の甲は先陣を切って赤く重痒く
発疹のように虫型に焼きただれていく 首元にも
まだ柔らかい痛みの箇所を認識できるとなると
もうその強力さに感嘆さえ覚えるのだった、悪虫 グッジョブ。


少女の午後、
陽気なオカマと共にバスに乗り込む。

右手には隠したい程の
美しいミミズ腫れの痛痒いタトゥ―

















自由詩 毛虫 Copyright ヨルノテガム 2009-09-24 15:42:58
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