江戸の楼閣ーすけきよのこー
……とある蛙

海原を望める楼閣から
富士を眺めていたその人は
貴人の家宰だった。
相模の山中の湯屋で
騙し討ちにあって
死んでしまった。

楼閣から海原を眺め
歌でも詠んでは酒を飲み
富士を望んでは歌を詠み
また、悠然と酒を飲む。

楼閣から望む海原や富士の美しさは
その人の日常でしかなく
惜しまれて死んでしまったが、
時代に巨大な一ページを付け加えることはついぞなかった。
山吹色の伝説を残して
惜しまれて死んでしまった。

北側に山を望める相模は
母の故郷であった。
その人の葬り去られた糟屋は
山一つ隔てたところ

母の故郷は
南側にも山のある盆地だったが
南側は海に繋がっているような気がした。
水平線はもちろん見えないが
青い海原の先の水平線を確かに感じることができる田舎

相模はその人を葬った土地だけでなく
その人の子孫を攻め立て屈服させた
小田原の流れ者の土地だ>

今日もまた。
その人は楼閣から海原を眺め
歌でも詠みながら酒を飲む
富士を望み、悠然と酒を飲む

そんな毎日はついぞこなかった。
そんな毎日が来る前に
貴人に騙され殺された。

当方滅亡

下克上が始まりかけたころのこと




自由詩 江戸の楼閣ーすけきよのこー Copyright ……とある蛙 2009-09-23 23:48:27
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