いとしい
葛西曹達

月が二つもあったら
なんだかちょっとくどい
コップで掬って
揺らして遊んで眺めてやる

星がひとつだったら
なんだかちょっと寂しい
鉛筆で穴を空けて
自分だけの星座つくってやる

風が同じ向きだったら
なんだかちょっと味気ない
ボタンを指で押して
満遍なく行き渡らせてやる

海が浅くて狭かったら
なんだかちょっとかわいい
アヒルのおもちゃ浮かべて
陽を浴びながら昼寝してやる

山の木が尖っていたら
なんだかちょっと痛そう
綺麗な花を植えて
色とりどりに飾ってやる

鳥が飛ばずに海に落ちたら
なんだかちょっと頼りない
「そのうち天に昇れる」と
変な言い訳で慰めてやる

雨が温かかったら
なんだかちょっとやさしい
全身に染み込むように浴びて
さっぱり洗い流してやる

ずっと朝が来ないのは
なんだかちょっと切ない
カーテン開いて窓あけて
太陽を部屋に迎えてやる

人間がひとりぼっちだったら
なんだかちょっといとしい
愛は教えてやれないが
骸に花は添えてやる


自由詩 いとしい Copyright 葛西曹達 2009-09-23 21:01:02
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