[fiction]
あやさめ
電気のつかない夕暮れ時の逆さまな空 
名詞の数だけ開かれた窓の向こうに 
鉛筆を転がして進んでは後戻りする 
形容された全ての柔らかい眠たさを 
放り投げてもう一度ドアを閉じるその部屋で 
彼らが昔々の物語を気づかないまま挟んで 
繋げては切り取って粉々にしてはしゃがみこむ 
 ─目を閉ざされた水たまりをよけて 
  映りながら笑う彼らの魂なんてなかったから 
  顔なんて最初からなかったらもっと楽だろう─ 
レンズだけいくつも重ねて散乱した単語たち 
ばらばらに並べて読み返す気持ちから無視される 
勝手に突き詰められた空想はついでに消されて 
記号と記号の間にしきつめられた白い繊維に願い事を 
作り出された次の物語を勝手に組み込まれた 
あなたの手書きの封筒 
 ─誰かが誰かを絵描きのふりをして福笑いの代わりにする 
  全ての方向から見えないものが支配する陰謀を 
  気にして推理することの正しさを誰が確かめたらいいんだろう─ 
名前をつけられた名前のない子供たちが今日も空に浮かんでは 
向こうの誰かを呼んでいると叫んでは一直線に行進している 
電気のつかない夕暮れ時の逆さまな空 
名詞の数だけ開かれた窓の向こうに 
鉛筆を転がして進んでは後戻りするだけ 
ただ適当に新しいと言ってしまえば誰も気にしないから 
みんなが目をつぶって振りかえって何も見ないままでいる 
そんな空を映すのが好きでしたと笑っては 
そういう窓だけ開けては閉じて 
そういう窓だけ開けては閉じて