落日の骨
e.mei


「僕は生まれるまえから窓のない部屋に住みたかった。
 落日の骨は終わらない記号のなかに消えてしまった光の海へとかえってしまう。」


君は自分を求めない問いが何番目にあるのかを知っていたのだと思う
双子のいない双子座を光が通り過ぎて
上昇を始めた水位のなかで泳いでいた魚を
君が愛した男が見つめていたのは偽りの記憶であって
夜になるとそれが証明されてしまうから逃げなければならないと君は言っていたけれど
遠くから流れてくる記号の成分は落日の骨にちょうどあてはまり
生きていた人間たちが並んで待っているあいだは
帰れないという答えに向かって
問題を解き始める


何処からが記号で何処までがわたしなのかはわからないと
独り言を言ったあと
君は僕を拒絶した
双子のいない双子座という新しい記号のなかには水がなく
溺れている人間がいない
僕の部屋に窓がない理由を僕は知っているのだけれど
この部屋を出ていっても流れてしまわないで
君にかえってきてほしいというのは僕のわがままだろうか





 君をうしなってから一年が経つのだけれど、僕は君を失ったのか喪ったのかまだわかっていない。当たり前という言葉がどの記号よりも大きくて、僕は何も考えずそれに甘えてしまっていたのだと思う。またがないことをわかっているのだけれど、僕は君との、またという時間を計算することをやめない。


だから教えてほしい
別れという結論に達した落日の骨が放っている光に
違和感がなかった理由を


僕は一人の夜に目を覚ましては後悔している
僕はなんだって窓のない部屋なんてものをつくってしまったのだろう


扉が開かれた時に侵入する光は窓のない部屋にすぐ散らばって
廊下では
上昇する水位に逆らいながら魚が深く深くに沈んでいる


自由詩 落日の骨 Copyright e.mei 2009-09-23 12:36:38
notebook Home 戻る